映画「プロミスト・ランド(Promised Land)」

00 脚本をマット・デイモン(Matt Damon)が手がけ、彼の監督デビュー作として企画されながら、諸般の事情でガス・ヴァン・サント(Gus Van Sant)が監督を務めることになった作品です。

そのせいか、ガス・ヴァン・サント監督作というより、マット・デイモン主演のエンターテイメント作品という印象の方が強い映画になっています。

物語のテーマはシェールガス。採掘権が衰退した農村に新たな収入をもたらす反面、その掘削手段である水圧破砕法が環境汚染に繋がるおそれがあるセンシティブな問題です。

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本作でも、マット・デイモン演じる大手エネルギー会社の辣腕社員、スティーブ・バトラーが地主である農家を次々と口説き落としていく中、高校の科学教師が住民集会で反対意見を述べたことで風向きが変わります。

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そこに突如として現れた環境保護活動家が、次第に住民たちの心を掴んでいき、エネルギー会社と真っ向から対決する図式になっていきます。

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ただし、この映画はシェールガスの是非を問うものではありません。さまざまな事情があるのだと思いますが、敢えてそこを論点にせず、皮算用と不安の間で揺れる田舎町の住民たちを背景に、エネルギー会社の幹部候補であるスティーブの心の変化を描いていく作品です。

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ですからスティーブの相棒、彼と組んで住民を口説いて歩くエネルギー会社のスタッフ、スーの役割は重要です。

この役を、古くはコーエン兄弟の一連の作品や「あの頃ペニー・レインと」、最近では「きっと ここが帰る場所」や「ムーンライズ・キングダム」で強い存在感を示してきたフランシス・マクドーマンド(Frances McDormand)が演じているのですが、これが非常に効いていて、彼女のおかげで安っぽくならず、ヒューマンドラマとして成り立っている感じです。

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また、スティーブに対抗する環境保護活動家の役で出ているジョン・クラシンスキー(John Krasinski)は、マット・デイモンと共同で本作の脚本を執筆した人。エミリー・ブラントのパートナーだそうです。

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後半で彼に関するどんでん返しが用意されていて、それを衝撃的と思えるかどうかが、本作を楽しめるか否かに繋がってきます。私は、環境保護の活動家と聞いた途端、胡散くさく感じてしまうタイプなので驚きはありませんでしたが……。

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ここ最近、シェールガスのおかげでLNGの増産が見込めることから、米国のエネルギー業界はLNGの輸出承認迅速化を議会に迫っています。化石燃料ですから、当然、温室効果ガスの問題があるわけですが、ある種の環境保護活動はLNGの使用量を増やす方向に後押ししていて、客観的な立場からみると、誰が誰の利益を代弁しているかなんて、わかったものではないという現実があります。

普段からそういうヒネくれた心で暮らしていると、本作のオチはあまりにも当たり前なのですが、素直な心で観ることができれば、それなりに衝撃を受ける結末になっています。

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舞台となった小さな町を空撮したエンドロールは、ガス・ヴァン・サント監督らしい美しい映像で、心洗われました。

公式サイト
プロミスト・ランド(Promised Land)

[仕入れ担当]