ベストセラー小説が映画化されると、観てガッカリする場合が多いのですが、この「ウォールフラワー」は小説も映画も共に傑作という希有な作品だと思います。
監督と脚本は、原作小説の作者でもあるスティーヴン・チョボウスキー(Stephen Chbosky)。これが長編映画初監督作品ということで、この報道をみた時は「せっかく良い小説なのに、なぜ実績ある監督に委ねないんだろう?」と思ったのですが、観賞後の感想としてはチョボウスキー監督で正解です。
また配役についても、主人公チャーリー役のローガン・ラーマン(Logan Lerman)、パトリック役のエズラ・ミラー(Ezra Miller)は小説のイメージ通りだと思いつつ、サムという女の子はコケティッシュというか、性的に奔放だけど成績はそれなりに優秀という設定なので、見るからに優等生っぽいエマ・ワトソン(Emma Watson)は違うと思っていたのですが、これまた彼女で正解だったようです。
ということで、観る前に抱いていた懸念が杞憂だったばかりか、今年観た映画の中でも五本の指に入る、とても満足感の高い映画でした。
物語は、主人公のチャーリーが憂鬱な気分で高校に通い始めるところからスタート。原作はチャーリーが友だち宛に手紙を書くという形式ですので、心情を伝え易いのですが、映画ではローガン・ラーマンがその佇まいだけで、居場所をうまく見つけられない少年を表現していて、それだけでもこの映画の完成度の高さがわかります。
高校に馴染めないといっても、ただ引っ込み思案というわけではなく、その理由が、自殺した親友やヘレンおばさんのエピソードを通じて明らかにされていきます。特にヘレンおばさんは非常に大切な要素ですので、小説を読んだ人なら、映画でどう描くか気になるところでしょうが、これも驚くほど上手に取り込まれています。
憂鬱な気分で高校に通い始めたチャーリーは、技術工作のクラス(米国では"shop class"というのですね)で先生の物まねをして場を和ませていたパトリックという3年生に好感を持ちます。
その後、学校対抗のフットボールを観戦しに行ってパトリックと出会い、サムとも知り合いになります。どちらも最上級生ですので、チャーリーは2人が恋人同士だと勘違いするのですが、実はそれぞれの両親が再婚した家族であることを知らされます。
この3人の高校生を中心に、それぞれ心に傷を負った若者が苦悩を乗り越えていく物語なのですが、苦悩のあり方が、現代社会というか、今の米国を象徴するようなものばかり。そのあたりにこの物語が世界中で受け入れられている理由があるのだと思います。
そして出演者たち。ローガン・ラーマンもエマ・ワトソンも素晴らしい演技をみせていましたが、特に良かったのが、これまでも「少年は残酷な弓を射る」「アナザー・ハッピー・デイ」と観てきたエズラ・ミラー。ますます演技に磨きがかかっていて、こういう「ちょっと壊れた」キャラクターがハマり役になっています。将来はショーン・ペンのような役者になりそうだと思うのですが、いかがでしょうか?
小説同様、映画でも音楽が非常に重要な役割を担っていて、随所に編集したカセットテープ(時代設定は1991〜92年です)が登場します。
特に、ピックアップトラックの荷台に立って、生きている実感と永遠を感じるシーンで流れる音楽は、おそらく映画のメッセージを伝える最大の見せ場でしょう。
この曲、映画では、小説のフリートウッド・マック「ランドスライド」から、デヴィッド・ボウイ「ヒーローズ」に変更されているのですが、これがまさにぴったりの曲。予告編のみで使われていたイマジン・ドラゴンズ「It’s Time」と同じように、歌詞が登場人物たち気持ちを代弁していて、シーンと曲がいつまでも脳内でリフレインします。
また、ザ・スミスの「アスリープ」も重要な一曲(上の写真はサムの部屋)。
映画ではさらっと描かれていましたが、シークレットサンタ(くじ引きで決まった相手のロッカーにこっそりプレゼントを入れ、当日に誰のプレゼントか当てるゲームで、考案者はサム)でチャーリーが贈るテープ、パトリックが「アスリープが2回も入ってた」というテープのB面はこんな選曲です。
- ザ・スミス「アスリープ」 Asleep by the Smiths
- ライド「ヴェイパー・トレイル」 Vapour Trail by Ride
- サイモン&ガーファンクル「スカボロー・フェア」 Scarborough Fair by Simon & Garfunkel
- プロコル・ハルム「ウィンター・シェード・オブ・ぺール」 A Whiter Shade of Pale by Procol Harum
- ニック・ドレイク「タイム・オブ・ノー・リプライ」 Time of No Reply by Nick Drake
- ビートルズ「ディア・プルーデンス」 Dear Prudence by the Beatles
- スザンヌ・ヴェガ「ジプシー」 Gypsy by Suzanne Vega
- ザ・ムーディ・ブルース「ナイト・イン・ホワイト・サテン」 Nights in White Satin by the Moody Blues
- スマッシング・パンプキンズ「デイドリーム」 Daydream by Smashing Pumpkins
- ジェネシス「ダスク」 Dusk by Genesis
- U2「MLK」 MLK by U2
- ビートルズ「ブラックバード」 Blackbird by the Beatles
- フリートウッド・マック「ランドスライド」 Landslide by Fleetwood Mac
- ザ・スミス「アスリープ」 Asleep by the Smiths
ちなみにA面には、ヴィレッジピープル、ブロンディ、ニルヴァーナ「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」などパトリックが好きそうな曲をいれているそう。
映画で使われている曲はさらに多様ですが、興味のある方面は、こちらのサイトでチェックできます。
公式サイト
ウォールフラワー(The Perks of Being a Wallflower)facebook
[仕入れ担当]