俳優出身のジュゼッペ・フィオレッロ(Giuseppe Fiorello)監督が初めて手がけた長編映画です。2009年の「シチリア!シチリア!」に両替屋の役で出ていたそうですが、路上でドル替えを叫ぶ人が出てきて、終戦後の場面になったことを伝えていたのは憶えているものの、演じていた人の風貌は忘れてしまいました。
そういう意味で、監督業への転向は成功だったのではないでしょうか。長編第一作目とは思えないほど完成度の高い作品です。シチリアの景色や風物詩と主役の少年たちの美しさを最大限に活かし、報われない愛の物語を清々しい映像と印象的な音楽で丁寧に綴っていきます。
原題を直訳すると、愛の不思議さ、奇妙さといった意味だそうですが、イタリアで人気のシンガーソングライター、フランコ・バッティアート(Franco Battiato)の楽曲のタイトルからとったものだそうです。この曲は映画のエンディングで歌詞の字幕付きで流れ、物語のテーマを補足します。
主役は二人の少年、16歳のニーノと17歳のジャンニで、時代は1982年。ワールドカップでイタリアが西ドイツを破って優勝した年です。

ニーノは学校を卒業したばかりで花火職人の父親の仕事を手伝っています。両親とシングルマザーの姉ジュゼッピーナ、その息子(つまりニーノの甥)トトと一緒に暮らしているのですが、家の庭先には叔父(父の弟)のチッチョが住むトレーラーハウスがあり、休日にはもう一人の叔父(父の兄)ピエトロとトトと一緒に兎狩りに出かけます。軒先では自家製のドライトマトを作っていますし、昼下がりには外のテーブルにみんなが集まって食事します。いかにもイタリアの大家族らしい楽しげな暮らしです。

対するジャンニは母親リーナとその同棲相手フランコと一緒に暮らしていて、やや孤立している印象です。フランコが経営するバイク屋で働いていますが、こき使われているようで、あまり幸せそうには見えません。その上、近くのバールに集まる男たちからオカマ扱いされ、笑いものにされています。

ある夕方、町の有力者の家にモペッドを届けに行くように命じられたジャンニのことを、バールの常連であるトゥーリが追いかけてきて、ちょっかいを出します。同じ頃、ニーノは卒業祝いに買って貰ったスクーターの試運転をしていたのですが、Y字路での出会い頭、追っ手に気を取られていたジャンニと衝突してしまいます。路肩に投げ出されて気を失ったジャンニに人工呼吸をして蘇生させるニーノ。意識が戻って安堵したニーノは、ノートの切れ端に住所を記して渡します。

数日後、ニーノの家にジャンニが訪ねてきます。フランコから離れて母と二人で暮らしたいのでニーノの父親アルフレードの花火工房で働きたいという用件ですが、もちろんそれだけではありません。それに対してアルフレードは、自分と息子だけで人手は足りているので、採石場で使って貰えないか兄のピエトロに訊いてみようと提案します。

ジャンニはピエトロが監理する採石場で働くことになり、ニーノは仕事終わりにジャンニをスクーターで迎えにいって一緒に過ごすようになります。次第に二人の距離が縮まっていくのですが、そんなある日、アルフレードの喘息が悪化し、医者から仕事を休むようにいわれたことで、ジャンニを雇うことになります。そうしてジャンニとニーノは花火工房の内外で二人で過ごす時間が長くなり、より親密になっていきます。

ロケ地はシチリアのノト(Noto)やマルツァメミ(Marzamemi)だそうですが、ジャンニとピエトロが泳ぎに行く川や海の美しさは並大抵ではありません。空撮を使ったり、水中撮影したり、さまざまな方法を駆使してシチリアの自然の素晴らしさを見せつけてくれます。二人の少年に降り注ぐ陽光が、彼らの幸せな時間を包み込みます。
そして二人で打ち上げに行く花火。彼らの姿と夜空の花火の組み合わせが素晴らしく、大きく輝き、ぱらぱらと落ちていく火玉が彼らのはかない関係を象徴しているようです。英語圏では“Fireworks”のタイトルで公開されているのですが、花火職人という設定がとても大きな効果をもたらしている作品だと思います。
難しいのはこの時代、まだ同性愛が社会に受け入れられていなかったこと。おそらくジャンニは以前、そういった理由で矯正施設に入れられていますし、ニーノの家族がそれを知ることになって二人の関係は終焉を迎えることになります。とはいえ、会えないとなれば思いは募るもので、結局、ワールドカップ優勝の晩、二人は久しぶりに再会します。

映画の終盤はオープンエンドになっていて、美しい景色の中、銃声が響いて終わります。その銃声が何だったのか、誰が何を撃ったのかは明示されません。イタリア国旗がかけられたスクーターがぽつんと残されている映像だけです。
ネタバレになりますがこの物語、1980年にシチリアのジャッレという町で25歳のジョルジオと15歳のアントニオが亡くった事件がベースになっています。詳細は“Giarre murder”で検索すると見つかると思いますが、このとき銃の引き金を引いたと自供したのはアントニオの13歳の甥フランチェスコでした。映画の物語に重ねるとニーノの甥、終盤の兎狩りの場面でようやく怖がらず銃を扱えるようになったトトですね。

もちろん幼い甥がこれほどのことを単独で行うわけはなく、社会的な制裁や家族や当人たちの恥の概念など込み入った背景があったわけですが、これをきっかけにイタリア最大のゲイ組織Arcigayが設立され、同性愛者の権利擁護が活発化したそうです。ちなみに現在のArcigayの会長はNatascia Maesiという女性です。

公式サイト
シチリア・サマー
[仕入れ担当]