映画「ジェーンとシャルロット(Jane par Charlotte)」

Jane par Charlotte つい先日、2023年7月16日にジェーン・バーキン(Jane Birkin)が76歳で亡くなりました。この映画の中でも健康面の不安に触れていていましたが、以前から病を患っていたそうで、娘シャルロット・ゲンズブール(Charlotte Gainsbourg)が“母のことをもっと理解したい”とドキュメンタリー製作に取り組んだ動機が図らずも理解できました。

映画の始まりは2017年の東京。その年の8月19日に渋谷Bunkamuraのオーチャードホールでにコンサート”Birkin – Gainsbourg The Symphonic“が行われていますが、それにシャルロットが同行し、このドキュメンタリーの撮影に着手したようです。続いて日本庭園が見える和室(鎌倉の茅ヶ崎館だそう)でインタビューするのですが、映画を観ただけでもわかるほどの、二人の微妙な距離感、遠慮がちな関係についてシャルロットが問いかけ、ジェーンが答えます。

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彼女いわく、他の娘とは違う、特別なものをシャルロットに感じたから、とのことですが、それはその後の関係を含めて咀嚼した回答ともいえ、何をきっかけに深入りしない関係、幼いシャルロットが姉妹に嫉妬するような冷めた関係が始まったのかという疑問は解消されません。

ジェーンは18歳で英国の作曲家のジョン・バリーと結婚し、1967年に最初の娘ケイト・バリー(Kate Barry)をもうけて離婚。フランスに渡ってセルジュ・ゲンズブールと出会い、1971年にシャルロットを産んでいます。二人は結婚せずにケイトとシャルロットを育てていましたが、1980年に映画監督のジャック・ドワイヨンと出会って翌年に結婚し、1982年に三番目の娘ルー・ドワイヨン(Lou Doillon)が誕生しています。父親が違う3人の娘がいるわけですが、ジェーンによるとそれぞれ一人ずつ公平にしたそうです。

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シャルロットは自分が二番目の子どもだということにこだわります。だから放っておかれたのではないかと言うのですが、ジェーンには特に深い考えはないようで、一人目は母親にとって初めての経験だけど、二人目になれば馴れるといった、ありきたりな答えに終始します。

おそらく二人とも、距離感の理由がセルジュ・ゲンズブール(Serge Gainsbourg)にあると気付きつつ、そこに踏み込みたくないというか、深掘りすると互いが傷つくと直感しているのでしょう。

映画では大徳寺の茶会の映像などをさはみ、ジェーンの日本びいきを紹介すると共に、シャルロットとの和やかな関係を見せていますが、続くニューヨークの映像まで2年以上、撮影は中断されていたそうです。
ジェーンに心境の変化があったのか、シャルロットが説得したのか判りませんが、シャルロットが暮らすニューヨークでコンサートが開催され、そこで共演することになって、改めて協力してもらえるようになったようです。

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2020年の3月6日にマンハッタンのビーコン・シアター(Beacon Theatre)で”Birkin – Gainsbourg The Symphonic”が行われており、セットリストをみると Ballade de Johnny-Jane をシャルロットとデュエットしています。検索してみたら会場で撮られた映像(こちら)もありました。

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撮影場所はフランスに移り、ブルターニュのランニリス(Lannilis)にあるジェーンの別荘でインタビューが続きます。もしかするとそれまでの間に体調を崩したのかも知れませんが、ジェーンが気弱になっている印象です。ずっと口パクで誤魔化してきたからコンサートはプレッシャーだし、鏡を見ると老化が気になるし、といった感じ。逆にシャルロットは大らかになっていて、もしかすると娘のジョー・アタル(Jo Attal)が一緒だからかも知れませんが、母親に対するいたわりが感じられます。

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そこで初めて2013年のケイト・バリーの死について語られ、睡眠薬について語られます。シャルロットを妊娠していたときは睡眠薬をやめていたと繰り返し語ることから、ケイト妊娠中には飲み続けていたのかも知れません。睡眠薬を大量に飲んだ状態で転落死したケイトについて、これまでの自分の行いと照らし合わせていたのでしょう。

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終盤、二人はベルヌイユ通りにあるセルジュ・ゲンズブールの旧宅を訪ねます。シャルロットが相続したそうで、驚いたことにセルジュ亡き後、ジェーンが訪れるのは初めてだそうです。時々この通りに来ると言っていましたが、ジェーンのパリの住まいは6区のリュクサンブール公園西側(50 Rue d’Assas)ですから、おそらく7区のこのあたりも生活圏なのでしょう。

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父の家にジェーンを連れてきたのは、おそらく母娘関係に関するシャルロットなりの総括だと思います。ここから立ち去ったジェーンと残されたシャルロットの関係がその後のセルジュとの関係を形作り、それが二人のわだかまりの根元に横たわっているのですから……。

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彼女は映画の撮影時、ここをミュージアムにして残そうと動き回っていたようですが、自治体から60万ユーロの支援を受られたようで、旧宅(5 bis Rue de Verneuil)はそのまま博物館にし、道路の向かい(14 rue de Verneuil)に新設するミュージアムショップ、書店、カフェ&バーと合わせてMaison Gainsbourgとして公開されるそうです。オープンは2023年9月で現在予約受付中とのこと。サンローランがパートナーになっていますので、この秋には各種メディアで紹介されることでしょう。

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ということでこの映画、ややこしい母娘が自分たちの難しさを探っていくという特殊な作品です。誰にでもお勧めできるものではありませんが、彼女たちの語りを聞いていると、どこかしら引っかかってくる部分があるかと思います。わたしは、ブルターニュのジェーンの家を見た後でセルジュの旧宅を見て、どちらも持ち物が多くて遺族は大変だな、と我が身を振り返ってしまいました。

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公式サイト
ジェーンとシャルロット

[仕入れ担当]