ベタすぎるほど型通りなロマンティック・コメディです。百千のロマ・コメとちょっと違うのは、男性同士のラブストーリーであること。といってもこれは今や珍しくないかも知れませんが、もうひとつの大きな違いが、イタリアの名勝チヴィタ・ディ・バニョレージョ(Civita di Bagnoregio)で撮影していることで、この町の風景を堪能できるだけでも一見の価値ありです。
映画の原題を直訳するとYou can kiss the groom(新郎にキスして)ですが、原作はオフブロードウェイで人気を集めた舞台劇「My Big Gay Italian Wedding」だそうで、ゲイカップルがイタリアの旧来の価値観と折り合いをつけて結婚に漕ぎ着けるまでのドタバタを描いていく物語です。ちなみに原作の舞台劇は人気があるようで「My Big Gay Italian Funeral」「My Big Gay Italian Midlife Crisis」「My Big Gay Italian Christmas」といった続編も作られています。中年の危機やクリスマスは良いとしても、葬式というのは一体どんなお話なのでしょうか。

それはさておき、映画はベルリンの街からスタート。役者仲間のイタリア人、アントニオとパオロは金持ちの友人ベネデッタの部屋でルームシェアして暮らしています。ある日、アントニオがパオロに結婚を申し込むのですが、まず家族にカミングアウトすべきだというパオロに押し切られ、アントニオが復活祭で帰郷する際、パオロも同行して両親に伝えることになります。とはいえ、ひとことで言うほど簡単な話ではなく、押し切った側のパオロは母親に告げて以来、ずっと疎遠になったままです。
そこにドナートという中年男性が訪ねてきます。ベネデッタがルームシェアの募集をしていてそれに応えてきたわけですが、女装癖があることを家族に知られて見捨てられたという元バス運転手。彼を留守居にしてイタリアに向かおうとすると、精神的な問題を抱えている、一人にしないでくれと懇願され、結局、アントニオは、パオロ、ベネデッタ、ドナートの3人を伴って故郷のチヴィタに帰ることになります。

チヴィタというのは、バニョレージョ(Bagnoregio)の中心地から2Kmほど離れた台地の上にあり、周縁部が崩落しつつあることから、作家のボナベンチュラ・テッキ(Bonaventura Tecchi)が死にゆく町(La città che muore)と呼んだという古い集落。手前の駐車場に車を停め、300mほどの橋を渡って町に入ります。google mapで見るとこんな感じで、旅好きなら絶対に訪れてみたい場所ですよね。
アントニオの母親アンナがチヴィタ出身で、父親ロベルトは結婚してから当地に来たようですが、今や町長を務める地元の名士です。議会でのやりとりを見ていると、ロベルトは移民の受け入れ、観光客の誘致を推進する現代的でオープンな町長のようです。

しかしそんなロベルトも、アントニオからパオロとの結婚を告げられると、ゲイの結婚など受け入れられないと一気に態度を硬化させます。おまけにミュージカルも嫌っているのですが、このことは映画の後半で効いてくる、ちょっとした仕掛けにもなっています。

一方、母親のアンナは前向きです。有名ウェディングプランナーのエンツォ・ミッチョ(Enzo Miccio)を雇って披露宴を開こうと、早速準備にとりかかります。ただし結婚には条件があって、みんなに祝福されること、つまりパオロの母親も結婚式に参列するように約束させられます。

修道士のフランチェスコもこの結婚に前向きで、権限がないにもかかわらず自ら挙式を執り行いたいと申し出ます。ロベルトは妻のアンナから、結婚を認めないなら家から出て行きなさいと言われ、友人のフランチェスコから、リベラルな考え方が支持されて町長に選ばれているのだからこの結婚も認めるようにと説得されることになります。

力強い味方を得た二人に残された問題はパオロの母親を参列させること。パオロはアントニオ、ベネデッタ、ドナートの3人と一緒にナポリの実家に行って母親と会うのですが、けんもほろろにあしらわれ、こうなったらドナートが女装して母親の代役を務めるしかないという突飛なアイデアが出てくるところまで追い詰められてしまいます。その上、チヴィタに戻ったら、アントニオの昔のガールフレンドで、いまだ諦めていないカミラが横やりを入れてきて、これまた厄介です。果たして二人は大団円を迎えられるのでしょうか。

好青年アントニオを演じたのはTVで活躍中のクリスティアーノ・カッカモ(Cristiano Caccamo)、パオロを演じたのは「皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ」に出ていたというサルバトーレ・エスポジト(Salvatore Esposito)、ベネデッタ役はディアナ・デル・ブーファロ(Diana Del Bufalo)、ドナート役はディーノ・アッブレーシャ(Dino Abbrescia)。

4人ともあまり有名ではありませんが、 ソプラノ歌手の娘でもあるディアナ・デル・ブーファロは歌手としても活動していて(→YouTubeチャンネル)、そのキャリアがさまざまな場面で活かされています。特にクライマックスで歌われる”Don’t Leave Me This Way”は歌詞の内容もミュージカル仕立ての演出も本作のエンディングを飾るに相応しい一曲。彼女の歌唱力で気持ちよいほど盛り上がります。

その他、父親ロベルト役のディエゴ・アバタントゥオーノ(Diego Abatantuono)、母親アンナ役のモニカ・グェリトーレ(Monica Guerritore)などイタリアのベテラン俳優が出演している他、有名ウェデングプランナーのエンツォ・ミッチョが本人役で出ています。

公式サイト
天空の結婚式
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