映画「暮れ逢い(A Promise)」

0 パトリス・ルコント(Patrice Leconte)監督が手がけた歴史ドラマです。

1990年代のセゾン系で立て続けに観た後の記憶が曖昧で、最後に映画館で観たのはいつだったか思い出せないほど懐かしい監督です。1年半ほど前に公開された「スーサイド・ショップ」の予告編や、それを素材に使った館内の注意事項(携帯電話の電源を切るなど)を観て、アニメの監督に転向したのかと思っていたら、なんと20世紀初頭のドイツを舞台にしたコスプレもので戻ってきました。

フランス人の監督がドイツを舞台に撮るとなれば、いったい何語で演じられるのだろうという疑問が湧いてきますが、主だった出演者は英国人ばかり。第一次世界大戦に翻弄されるドイツ人のロマンスが、驚きのブリティッシュイングリッシュで演じられるばかりか、韓流っぽい仕掛けまで取り込まれていて二度びっくりです。

驚くのはそれだけではありません。歴史ドラマらしく、物語がゆったりと立ち上がっていくのですが、そのうち何らかの急展開があるのだろうと思っていると、そのままエンディングを迎えてしまうのです。何の驚きもないストーリーに、逆に驚いてしまいました。初見にもかかわらず、誰もが知っている古典を観ているような錯覚に陥らせてくれる不思議な作品です。

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主な登場人物は、リチャード・マッデン(Richard Madden)演じる若い技術者フレドリック・ザイツ、アラン・リックマン(Alan Rickman)演じる、ザイツの勤務先の社主カール・ホフマイスター、レベッカ・ホール(Rebecca Hall)演じるその若妻シャーロット(愛称:ロット)の3人。

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一応、シャノン・ターベット(Shannon Tarbet)という新人女優がザイツの元恋人役で出ているのですが、存在感を発揮する前に出番がなくなり、ほとんど上の3人と夫婦の息子オットーだけで展開して行きます。

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映画は溶鉱炉に流れ込む鉄のクローズアップで幕開け。続いて、大学を優秀な成績で卒業したフレドリック・ザイツが、カール・ホフマイスターが経営する大手製鋼会社に入社してきます。

ある日、オフィスで倒れたカールが、自分には会社の誰にも知らせていない持病があると、フレドリックに打ち明けます。フレドリックの働きぶりに目を留めていたカールは、彼を自分の片腕にしたいと考えていて、療養のため自宅勤務をする自分と会社の橋渡しをして欲しいと頼みます。

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そんな経緯でホフマイスター邸に出入りするようになったフレドリックが、カールの妻、シャーロットと出会います。シャーロットの両親が亡くなった後、彼女を支えてくれたのが両親の友人であるカールだったということで、2人には親子ほどの年齢差があり、フレドリックは彼女の若さに驚き、美しさに惹かれます。

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シャーロットもまた、自分と近い世代の優秀な青年、フレドリックに惹かれていくのですが、彼女には妻としての立場があります。もちろんフレドリックにもカールの部下としての立場がありますので、2人の関係がそのまま突き進むことはありません。お互いに思いを募らせつつ、距離を置く関係が続き、そのうち本当に離ればなれになってしまいます。

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そんな歯がゆい恋を、パトリス・ルコントらしいフェテイッシュな視点から描写していくのですが、これが今ひとつなのが本作の残念なところ。

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シャーロットが愛用するゲランのルール ブルー(L’Heure Bleue)や、彼女がベートーヴェンのピアノソナタ(Pathétique, Adagio cantabile)を奏でるスタインウェイの鍵盤など、フェテイッシュなネタはそれなりに揃っていますし、秘められた思いをクローズアップを使ってエロティックに描くスタイルも健在なのですが、どれも私にはピンときませんでした。そんなわけで、伝統芸能のようになってしまったパトリス・ルコントの芸風を感じさせてくれる一本です。

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終盤には、第一次世界大戦の帰還兵がハーケンクロイツを振るのはどうなの?と思っていたら、「冬ソナ」ファンが喜びそうなジグソーパズルのシーンにダメ押しされ、そういう映画なのねと、ある種の納得しながら映画館を後にしました。

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公式サイト
暮れ逢い(A Promise: press kit

[仕入れ担当]