映画「嘆きのピエタ(Pietà)」

Pieta0 観てみたいと思いながら、観た後に落ち込みそうで、今まで観ていなかったキム・ギドク(김기덕)作品。ヴェネツィアで金獅子賞を獲ったというこの「嘆きのピエタ」を観なかったら、永遠にこの監督の作品を観ることはなさそうだと思い、Bunkamuraまで出かけてきました。

予告編を観ただけで陰鬱な映画だとわかりますので、好きな人しか観ないだろうと思いつつ、念のためネット予約して行ったのですが、これが正解でした。私が観た回は最前列まで満席で、次の回も既に残席わずかという混み具合。ちょっとびっくりしてしまいました。

映画の主人公は、親に捨てられ孤児として育ったイ・ガンド。高利貸の取り立て屋として生計を立てており、返済できない人には、障碍者になって保険金で返済するように追い込むアウトローです。

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映画の幕開けから、車いすの若い男性がチェーンブロック(天井クレーン)の鎖を首にかけ、自らスイッチを入れるシーン。それに続き、ガンドに返済を迫られ、手や足を失うように仕向けられる人たちが次々と登場します。

そんな中、ガンドの母親だと言い張るミソンが現れます。最初は訝しんでいたガンドも、いろいろ彼女を試すうちに、もしかしたら本当の母親ではないかと思い始めるのですが、今度は突然ミソンが姿を消し、ガンドが試される役回りに。ミソンが現れた理由を解き明かしながら、ガンドの心の動きを丁寧に描いていきます。

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映画のタイトルもピエタですし、テーマは母の愛なのでしょう。貧困や暴力も執拗に描かれますが、結局、雰囲気を盛り上げるスパイスに過ぎません。母の愛を知らずに育ったガンドと、無償の愛を注ぎ続けるミソンの、唐突に始まった親子愛のようなものをベースに"母なるもの"に迫っていく映画だと思います。

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ややネタバレになってしまいますが、キム・ギドク監督は、きっと誰も悪人として描きたくなかったのでしょう。キリスト教的というのでしょうか。贖罪っぽい終わり方でしか、愛による気づきを示せないよなぁ、というのが終映後の感想です。

それにしても、舞台となった清渓川(チョンゲチョン)の、時代に取り残されたかのような街並みには軽い衝撃を受けました。ぱっと見ただけで貧困がイメージできる風景。現在のソウル市の一角なのに、まるで終戦直後の東京を写したモノクロ写真のようです。

当初、大阪でこの映画を撮る計画があり、横浜や川崎でもロケハンをしていたそうですが、果たしてここまでインパクトのある街並みは見つかったのでしょうか。

公式サイト
嘆きのピエタ피에타

[仕入れ担当]