来年5月の営業終了を発表された銀座テアトルシネマ。ヨーロッパ映画の上映も多く、観やすく快適な客席で好きな映画館の一つでしたので、閉館してしまうのは非常に残念ですが、まだまだ良質な映画を提供してくれています。
「あの日 あの時 愛の記憶」は、ポーランドの歴史に翻弄された恋人たちを描いた味わい深い映画です。確か「サラの鍵」も銀座テアトルシネマでしたが、この映画でも、ナチス占領の時代と、戦後の時代が交互に描かれていきます。
戦中の舞台はポーランド国内にあったアウシュヴィッツ強制収容所。
当時、ポーランドはドイツとソ連に占領されていたのですが、そのレジスタンス運動で逮捕され、強制収容所の雑役として働かされていたポーランド人男性トマシュと、強制収容されていたベルリン出身のユダヤ系女性ハンナが出会います。
脱走に成功したトマシュとハンナでしたが、トマシュの母親は、ユダヤ人女性を匿うことに大反対。トマシュの留守中、訪ねてきたドイツ軍を家に入れたり、ハンナが連行されることを願っている様子がありありです。
危機から逃れたハンナは、レジスタンスの闘士である、トマシュの兄嫁の家で暮らすことに。
その後、ワルシャワに行ったトマシュが消息不明となり、ソ連軍の侵攻から逃れたハンナは赤十字に助けられて米国に渡り、1976年現在、学者の夫、娘と共にニューヨークのブルックリンで暮らしています。
夫の研究の表彰を祝うホームパーティの日。ハンナは、テーブルクロスを取りに行ったクリーニング店のTVに映っていたBBCの番組でトマシュを見かけます。
現在の生活に満たされていながらも、トマシュとの再会に思いを馳せるハンナ。戦中の過酷な体験と共にトマシュとの日々の記憶が蘇り、観客もハンナと一緒に1944年のポーランドを追体験していきます。
1944年といえばワルシャワ蜂起の年。ソ連軍にそそのかされて蜂起したポーランド国内軍が、結局、ドイツ軍に壊滅させられてしまったという史実があり、ハンナが、トマシュは死んだものと思い込んでいたのも仕方ありません。もちろん逆の立場から見れば、ハンナが生き延びているとは思いもよらないでしょう。
映画の結末については賛否両論あるかと思います。ただ、1976年のポーランドはまだ共産主義政権下にあり、U2 の"New Year’s Day"で歌われたワレサ委員長の「連帯(Solidarity)」が結成され、民主化運動が始まるのが1980年。まだまだ西側諸国から遠い存在だった時代のポーランドですから、いろいろな苦労があったと想像できます。
実話ベースの映画ということもあり、個人的には、こういう終わりかたで正解なのではないかと思いましたが、いずれにしても、観賞後にいろいろ語りたくなる映画だと思います。
公式サイト
あの日 あの時 愛の記憶(Die verlorene Zeit)
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