映画「無言歌(The Ditch)」

Ditch0 昨日に引き続き、重たい内容の映画です。廃虚になった工場、街、家族などを描いたドキュメンタリー「鉄西区」で高い評価を得た王兵(Wang Bing)監督初の劇映画。

毛沢東が主導した反右派闘争(反体制狩り)によって辺境に送られた人々のお話です。

原題の「夹边沟(Jiābiāngōu)」は甘肃省の地名で、内モンゴル自治区の西側の乾燥した土地。もう少し西に行くと、シルクロードで日本でもお馴染の敦煌があります。

その荒れ果てた土地を開墾するという名目で、1950年代後半、毛沢東の施政に批判的だった知識人たちが、労働改造と称する過酷な作業に従事させられました。

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まず驚くのは、これが文化大革命による下放の10年前に行われた施策であること。

結局、この労働改造は夥しい死者を出したことで60年代初頭に中止され、右派と烙印を押された人々は赦免されますが、その数年後に再び、文化大革命という人間性無視の運動に突っ走るわけです。

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この「無言歌」は、杨显惠(Yang Xianhui)の小説「告别夹边沟」や「夹边沟记事」をベースに、夹边沟の生存者に王兵監督がインタビューして脚本化したもの。チラシに写真が使われている草の実を集める老人は、実際に塹壕で生活し、草の実を食べた一人だそうです。

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映画で描かれているのは「飢え」、そして「病い」と「死」。特に「飢え」に関する描写は壮絶です。現代の日本で暮らしていると、飢餓について深く考えることはほぼありませんが、たとえば人の屍肉を喰った疑いで罰せられる人が登場するなど、限界を超えてしまった人々の姿が描かれていきます。

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映画として面白いか、と問われると返答に窮しますが、反右派闘争、文化大革命、そして天安門事件へと続く、共産党政権の政治的態度について考える機会を与えてくれる映画だと思います。

公式サイト
無言歌

[仕入れ担当]