ブログでは、個人的にお勧めしたい映画か、お客様と話題が共有できそうな映画だけを選んでご紹介するようにしているのですが、そういう意味で今回の「シルビアのいる街で」は、ちょっと微妙な映画です。少なくとも、万人受けする映画ではありません。
ストーリーは、あるような、ないような曖昧なもの。ある男性が、フランスのストラスブール(Strasbourg)の街で、シルビアという女性を探すお話なのですが、この男性が、シルビアを探す目的でこの街に来たのか、他に目的があってこの街にいるのかさえ、まったく示されません。
観客に与えられる情報は、彼がありきたりなホテルに泊っていること、演劇学校(ESAD)の前のカフェでノートに絵を描きながら街の人々を観察していること、6年前に「飛行士(Les Aviateurs)」というバーで出会ったシルビアに似た女性を追いかけるということだけ。果たしてシルビアという女性が実在するのかどうかも判然としないまま、映画を観ていくことになります。
つまり、すべての解釈は観る側に委ねてしまうというタイプの映画です。こういう映画が好きな人は、ぐんぐん引き込まれていったと言うでしょうし、合わない人は、退屈な映画だったと言うことでしょう。個人的には、主人公がノートに elle と書いた後、sを書き加えて elles にするシーンに意味があるように思うのですが・・・。
監督はスペイン人のホセ・ルイス・ゲリン(José Luis Guerín)。「エル・スール(El Sur)」や「ミツバチのささやき(El espíritu de la colmena)」のビクトル・エリセ(Víctor Erice)監督が絶賛するだけあって、さすがに技術レベルの高い人だと思います。カメラの長回しを多用し、街の騒音をそのまま利用し、ほとんど会話がなくても映画が破綻したりしません。カフェやトラムのガラスの反射の使い方も巧みだと思います。
また、主演のグザヴィエ・ラフィット(Xavier Lafitte)の澄んだ目が印象的でした。あの目だからこそ、女性を尾行してもストーカー映画のようになったりしないのでしょう。尾行される役、ピラール・ロペス・デ・アジャラ(Pilar López de Ayala)は、女王フアナ(Juana la Loca)でゴヤ賞を獲得している女優さんだそうですが、彼女の醸し出す雰囲気も素敵でした。
そして映像の美しさ。どのシーンも計算され尽したスタイリッシュな映像で、ストラスブールの街の美しさもあいまって、観ている側に心地よい余韻を与え、空想をかきたててくれます。
2008年の東京国際映画祭で話題を集めた作品です。映画好きな方なら、試しにご覧になってみるのも悪くないかも知れません。
公式サイト
シルビアのいる街で(En la ciudad de Sylvia / Dans la Ville de Sylvia)
[仕入れ担当]