映画「アナザーラウンド(Druk)」

Another Round監督がトマス・ヴィンターベア(Thomas Vinterberg)、主演がマッツ・ミケルセン(Mads Mikkelsen)という「偽りなき者」のコンビがコペンハーゲンを舞台に撮った作品です。今年の米国アカデミー賞で国際長編映画賞の栄冠に輝いた他、セザール賞や英国アカデミー賞の外国語映画賞を獲得しています。

原題は酒を大量に飲むこと、酩酊することを意味するデンマーク語だそうで、酒を飲むことで解放され、失態を演じ、それでも飲み続けてしまう人々を描いていく映画です。

主な登場人物は、マッツ・ミケルセン演じる高校の歴史教師マーティン、その妻と二人の息子、マーティンの同僚教師3人と生徒たち。学校では尊敬を得られず、家庭でも今ひとつうまくいっていない教師たちが、冴えない現状と鬱屈した気持ちを打破するため日常的に酒を飲む試みを始めます。

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その根拠は、ノルウェーの学者スコルドゥールが提唱した“人間は血中アルコール濃度が0.5‰不足している”という理論で、つまりアルコールを摂取し続けて血中濃度を0.05%に保てばものごとがうまくいくというもの。ヘミングウェイに倣って、晩の8時以降は飲まないという自主規制を設けて、スコルドゥールの説を実践します。

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酒を飲むことで気持ちが大きくなり、自信のなさが打ち消されて勢いが出ます。それが奏功して生徒たちからの人気も得られ、生き方や考え方も前向きになります。気をよくした彼らはさらなるレベルアップを図るため、血中濃度0.1%を目指すようになります。

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これでうまくいけば良いのですが、もちろん弊害がありますし、その先にはアルコール依存症も見え始めます。終盤には思いがけない悲劇も起こり、これで心を入れ替えて断酒するのかと思いきや、まったく違う展開になって不思議な後味を残す映画です。ある種の人生賛歌なのかも知れません。

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一応、物語のテーマとして中年の危機があり、マーティンと妻アニカの関係がベースになるのですが、これについてはあまり深掘りしません。またデンマークは16歳から飲酒可能で、酒飲みが多いという点にも触れられるのですが、だからといって飲酒の危険性を警告するわけでもありません。監督の本当の意図はよくわかりませんでしたが、観た印象をひと言でまとめれば、お酒はほどほどに、といったところでしょうか。

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ちなみにフィン・スコルドゥール(Finn Skårderud)は実在の学者で、20年ほど前に出版されたワインの心理的効用に関する本の序文に“ワインを1〜2杯飲むと何が問題か気付く、人間はアルコールが0.5‰足りない状態で生まれてきたということに”と記したそうです。医師でもある著者がそう書いたことが話題になり、まわり巡ってこの映画の支柱になったというわけです。

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もともとはコメディとして企画されたそうた映画だそうですが、結果的に複雑な感情を涌き起こさせるような作品になったのは、マーティンの娘役で出演する予定だったヴィンターベア監督の娘イダ(Ida Maria Vinterberg)の交通事故死が関係しているのかも知れません。思い起こせば「偽りなき者」も一筋縄ではいかないエンディングでした。いずれにしても、マッツ・ミケルセンのダンスを含め、妙にポジティブな印象を残す作品です。

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公式サイト
アナザーラウンドAnother Round

[仕入れ担当]