映画「世界で一番ゴッホを描いた男(中国梵高)」

00 昨日の「華氏119」に続いて今回もドキュメンタリー映画です。

カメラが追うのは、中国の深圳郊外にある大芬(ダーフェン)で暮らすチャオ・シャオヨン(赵小勇)という中年男性。湖南省から出稼ぎに来て以来、20年間にわたってゴッホ(梵高)の複製画を描いてきた画工です。

大芬というのは、有名画家の複製画作りで有名な土地だそうで、世界中のレプリカの6割以上が当地から出荷されているそうです。

30年ほど前に香港の画商がこの地で複製画作りを産業化し、中国の高度成長の波に乗って10,000人以上の画工が働く一大ビジネスに成長したとのこと。現在は「大芬油絵村」と呼ばれ、観光地としても人気だそうです。

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中学一年で学業を終えたシャオヨンですので、当然ながら、絵画の専門教育を受けたことはありません。ポストカードや画集を見ながら、ひたすら模写をするのみ。ひまわり、星月夜、夜のカフェテラス、自画像といったゴッホの有名作品を数多く手がけ、今では妻の他に弟子を抱える経営者でもありますが、いまだホンモノのゴッホの作品は見たことがありません。

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アムステルダムの顧客からの誘いもあり、一念発起して欧州に旅立つ決心を固めます。金銭的な心配を口にする妻の説得から、生まれ故郷に帰ってのパスポート取得まで細々とした問題を片付け、ビザの発給を待って、空路オランダへ。

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まず誘ってくれた長年の顧客のところに行くのですが、シャオヨンが画廊だと思って複製画を卸していた顧客の店が単なる土産物屋だと知ってびっくり。その上、48ユーロで卸した絵が500ユーロで売られていてさらにびっくり。内心、かなり傷ついたようですが、気を取り直し、いよいよ夢にまで見たゴッホ美術館です。

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初めてゴッホの作品を見たシャオヨンの表情が観客の心を打ちます。このドキュメンタリー映画の素晴らしさは、シャオヨンのゴッホに対する熱い思いを丁寧に写し取っているところなのですが、シャオヨンの生真面目な性格のおかげで感動が増幅される感じです。

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その後、フランスに移動し、パリからアルル、ゴッホの墓所があるオーヴェル=シュル=オワーズまで旅が続きます。墓参りでは線香代わりにタバコを供え、ユーモラスな映像なのに、じわじわと真摯な気持ちが伝わってくるのもシャオヨンのキャラクターゆえでしょう。

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個人的に面白かったのは、シャオヨンが家族を連れて出かける深圳の公園。世界之窗(世界の窓)という一種の遊園地で、日本の東武ワールドスクウェアのように世界中の名所史跡のミニチュア版が立ち並んでいます。ユイ・ハイボー(余海波)監督としては、イミテーションが生活に溶け込んだ文化を複製画作りの土壌として示したかったのかも知れませんが、そんな難しいことを考える前に公園の作りの拙さに笑わされる場面です。

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たとえばバルセロナのグエル公園のすぐ向こうにオランダの風車小屋が立ち並ぶレイアウト。見ようによっては、かなりシュールな風景です。その後、ホンモノのアムステルダムに飛んだシャオヨンは、スキポール空港に隣接する風力発電の風車の列を目にすることになります。世界之窗のニセモノに比べ、情緒のかけらもない風車だと思ったことでしょう。イミテーションとホンモノの違いを知る旅をテーマとする本作において、ある意味、象徴的なシーンだと思います。

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その他、都市と地方の所得格差や、娘の都市戸籍問題など現代的なテーマもさりげなく織り込まれている本作。ついついシャオヨンの個性に引っ張られてしまいますが、ディテールをよく見るとさまざまな発見がありそうな作品です。

公式サイト
世界で一番ゴッホを描いた男China’s Van Goghs

[仕入れ担当]