2010年に文庫で復刊された「安閑園の食卓」は、料理研究家・辛永清さんが幼少時に暮らした台南の食の風景を綴ったエッセイ集です。
各章の終わりには料理のレシピが記されていて、それなりに実用性もあるのですが、このエッセイの魅力はそこではありません。どのページをつまみ読みしても情景が鮮やかに浮かんでくる描写の美しさと的確さ。そして最近はなかなかお目にかかれなくなった端正な文体。読書しているのに、まるで名作映画を観ているかのような錯覚に陥ります。
感受性豊かな文章だけでなく、著者の考え方や人となりといった文章の向こう側にも魅せられます。台南の名家に生まれ、何不自由なく育った後、結婚と東京での生活と離婚を経験し、料理を教えてシングルマザーの生計を支えた著者。実家の安閑園は、使用人の家や畑まである荘園のような屋敷でしたが、東京の住居は2DKのマンションだったといいます。
それでも、まるで安閑園のように大勢の人々が訪れ、彼女のもてなしを受けたそうです。その理由の一つは彼女が作る料理。当時の日本では珍しかった本格的な台湾料理も美味しかったことでしょう。しかしそれだけではなさそうです。料理を作るということは、料理を食べる人のことを思いやること。ひと皿ひと皿に彼女の強い思いや気持ちが宿っていて、多くの人がその虜になったのだと思います。
文庫の後書きにはご子息が文章を寄せていて(こちら)、それを読んだだけで、辛永清さんの凛とした暮らしぶりが伝わってきます。そんな素敵な生き方を育んだ台南にずっと興味を抱いていたのですが、先月、ようやく訪れることができました。
まずは安閑園、ということで調べてみたところ、ご尊父の辛西淮氏は地元の名士ですので住所はすぐにわかりました。
市内で暮らしていたときの住所
◎台南州台南市明治町3之3番地(台南州會議員)
郊外に移ってからの住所=おそらくこれが安閑園
◎台南州北門郡西港庄西港587(日治時期台灣人士紳一覽表)
日本統治下の明治町は概ね現在の成功路にあたり、当時の明治公学校が成功国民小学、明治市場が鴨母寮市場になっているそうで、文庫に記されていたような古い建物を使っている銀行を界隈で探してみると……。
正面をレンガ風タイルで改装した第一商業銀行の建物。風情ゼロですね。
安閑園があった西港の慶安宮界隈をストリートビューで見たところ、こちらも大きく様変わりしているようでした。
ということで郊外まで出掛けることは諦め、安閑園の精神(?)だけ忠実に学んで、ひたすら食べまくってきました。
こちらは書籍でも触れられていたごちそう、海老とカラスミ。
贅沢なほど厚切りのカラスミは大根と長葱を併せていただきます。
絶対に食べたかったカニおこわ。ミソがたっぷりです。
右は「旬だから」と勧められた茹でた筍。サラダ感覚でマヨネーズをつけて食べるのですが、何もつけなくても甘みがあって美味しい!
そして、台湾料理の人気ナンバーワンと言えば、小籠包!ですよね。ネギがびっしり入った饅頭もイケます。
もちろん、台南名物も食べまくりです。
エビのすり身や豚ミンチ、ネギなどを豚の横隔膜で巻いて揚げた蝦捲(左)と牡蠣の土鍋(右)。
魚(サバヒー)のつみれスープにはたっぷりと刻みショウガをのせて。
こちらは、台南スイーツの代表、豆花。
お豆腐に甘く煮た豆のトッピング。食べた印象は寄せ豆腐でしたが、一青窈さんのお姉さんの解説によると、お豆腐とは少し違うそう。
老舗の<同記安平豆花>でいただきました。店内は地元の人でいっぱい。
そして大人気の<莉莉水果店>のマンゴかき氷。写真ではサイズ感が伝わらないかもしれませんが、直径25cmぐらいあってかなりの分量。それでもペロリです。フルーツの盛り合わせもいただきました。梅塩をつけて食べるのが台湾風のようです。
台南はフルーツ天国! 街角にもたわわに実ったマンゴー♪
夜市のB級グルメも外せません。
台南で最も歴史があるといわれる武聖夜市に行ってきました。
烏賊の姿揚げ(?)もハンパない大きさです。
台南はスイカも特大! 右の写真中央の赤い実は、レンブ(蓮霧)というフルーツ。初めていただきましたが、さっぱりした味とカリカリっとした食感でいくつでも食べられそうです。
台南の人が食べ過ぎた時に飲むという小麦草のジュース。日本の青汁的なものを想像していたのですが、青臭さはまったくなく、どちらかというとレモングラスティーのような爽やかな飲み口でした。
「安閑園の食卓」でも宴会について触れられていますが、台湾の人々はとにかく大人数で食事をするのが好き。訪台したのが端午節(旧暦)の連休でしたので、街のいたるところで辦桌(バントー:野外食事会)が繰り広げられていました。
前方の舞台ではセクシー系のお姉さんたちによる歌謡ショーもあり。
次々に供される大皿料理には、ステージに負けじとネオンが飾られています★
食べに食べまくった台南旅行の最後は粽(チマキ)。いつも行列ができていた成功路のお店で買って、帰りの新幹線(台灣高鐵)で食べました。具だくさんに、香辛料もしっかりきいて、幸せです♥
帰ってきてひと月も経っていないのに、こうしてブログを書いていたら、また台南に行きたくなってしまいました。
[仕入れ担当]