ポール・ハギス(Paul Haggis)監督の最新作です。2006年アカデミー賞の作品賞・脚本賞を獲得した「クラッシュ」を彷彿させる予告編をご覧になり、気になっていた方も多いかと思います。
複数のストーリーが交錯しながら展開するという点は似ていますが、「クラッシュ」が物語を重層化することで社会の多様性を表現していたのに対し、本作では現実とイマジネーションが入れ子の構造になっていますので、結果的にとても掴みどころのない作品になっています。
ですから、万人にお勧めできる映画ではありません。特に、同じ人物が異なる世界にこっそり登場していたり、別の人物に入れ替わったりしますので、登場人物の顔を覚えることが苦手な人は観ていて混乱しそうです。
映画の舞台は、パリ、ニューヨーク、ローマの3都市。パリではリーアム・ニーソン(Liam Neeson)演じる作家が、ホテルに籠もって小説を執筆中。米国にはキム・ベイシンガー(Kim Basinger)演じる妻がおり、パリではオリヴィア・ワイルド(Olivia Wilde)演じる作家志望の女性と不倫していて、ちょっとネタばれになってしまいますが、この関係が映画全体の核になります。
ついでながら、この作家の担当編集者も重要な役です。デイヴィット・ヘアウッド(David Harewood)という、あまり知られていないアフリカ系の英国俳優が演じていて、出演シーンも少ないのですが、彼が語る言葉のすべてが、この映画の仕掛けを解き明かすヒントになっています。
ニューヨークの物語は、結婚生活が破綻し、息子の親権争いをしているミラ・クニス(Mila Kunis)演じる端役女優が主人公。彼女の弁護士をマリア・ベロ(Maria Bello)が演じているのですが、別の人物と重なったり、これまた重要な役ですので要注意です。
彼女が争っている元夫はジェームズ・フランコ(James Franco)演じる現代美術のアーティスト。彼には既に新たなパートナーがいて、息子と3人で暮らしています。
そしてローマ。ファッションブランドのデザインを不法に入手し、それを横流しして稼いでいるアメリカ人の役をエイドリアン・ブロディ(Adrien Brody)、そんなローマの生活に疲れて立ち寄ったバーで出会うロマ(ジプシー)の女性をモラン・アティアス(Moran Atias)というモロッコ系イスラエル人の女優が演じます。
自らの娘に関する辛い過去を抱えていたアメリカ人は、ロマの女性が娘を取り戻すために必要だという大金を提供しようと申し出ます。もちろん、この女性の話が本当か嘘かわからないわけで、アメリカ人は疑念を抱きながら彼女を信じようと試みるのですが、観客もその頃には、この映画の虚構に満ちた世界観に気付いています。つまり、どの部分を拠りどころに映画を解釈すれば良いのか、わからなくなってしまうのです。
そんな一筋縄ではいかない、ちょっとひねくれた作品です。共通の要素を散りばめることで3つの物語に一体感を与えながら、それぞれの街を少しずつトーンを違えて撮っていたり、ポール・ハギスらしい巧さを感じる作品でもあります。
いろいろ語りたくなる要素の多い映画ですので、こういった作品をよくご覧になっている方なら、映画好きのお友だちとのおしゃべりが尽きないかも知れません。
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