名作「輝ける青春」の監督、マルコ・トゥーリオ・ジョルダーナ(Marco Tullio Giordana)が手掛けたイタリア現代史の一幕を描くヒューマンドラマです。
「輝ける青春」では、戦後40年間にわたる家族の歴史がイタリア各地を舞台に描かれましたが、本作では、フォンターナ広場爆破事件の発生後1年ほどを、事件をとりまく人々の思惑を絡めながら鋭く切り込んでいきます。
フォンターナ広場爆破事件というのは、1969年12月12日、ミラノのフォンターナ広場(Piazza Fontana)に面した全国農業銀行(Banca Nazionale dell’Agricoltura)が爆破され、7人が死亡、88人が負傷した無差別テロのこと。
この前年にはパリ五月革命が起きるなど、世界的にアナーキストや共産主義者の活動が活発化していた時期ですが、イタリアではネオ・ファシストが政権に食い込むなど、複雑な様相だったようです。
映画は、何者かが食洗機のタイマーを50個注文するシーンからスタート。その後、デモ隊と警官隊が衝突する場面に変わり、不穏な時代の空気を醸し出していきます。
ここでこの映画の中心人物、カラブレージ警視と、アナーキストの鉄道員、ピネッリが登場して、彼らの関係がぼんやり伝えられます。これが、この事件に対する監督の視点を示す重要な伏線だったのだと思うのですが、いかんせんイタリア史に疎くて、私はぼんやりと観てしまいました。
そして、銀行の記帳カウンターの下に置かれたダレスバッグが爆発するわけですが、観ていて思ったのは「こんな小さな爆弾で壁まで吹き飛ぶの?」ということ。この5年後に日本で起きた三菱重工の爆破事件では、50キロあまりの爆薬が使われたそうですが、それでも建物そのものは壊れていませんでした。そんな感じで不思議に思っていたら、終盤にかけてこれに関するさまざまな事柄が透けて見えてきます。
といっても、未解決の事件ですから、すべて種明かしされるわけではありません。
当初はアナーキストが疑われ、ピネッリが捉えられて尋問中に不審死するわけですが、どうやら監督や原作者のパオロ・クッキアレッリ(Paolo Cucchiarelli)は、ネオ・ファシストを介して時の政権が関与していたと考えているようです。ですから邦題にも英題(Piazza Fontana: The Italian Conspiracy)にも陰謀や謀略といった言葉が入っているわけです。
この映画にもアルド・モーロ外務大臣(後のイタリア首相)が出てきますが、彼が“赤い旅団”に誘拐された事件の背景は、去年観た映画「イル・ディーヴォ」で知りました。要するに、国内の権力争いと、冷戦時代の東西バランスが絡み合い、その利害関係に有象無象が食い込んで、政権中枢が腐敗していたということです。
捜査の場面で言及される国々が、ギリシア、スペイン、ポルトガル(字幕には出ませんでしたが)というのも、面白いというか、このたびのユーロ危機で取り沙汰された国と同じで、ことの根深さを感じました。暖かい南欧の国はいろいろと腐りやすいのでしょうか。
公式サイト
フォンターナ広場─イタリアの陰謀
[仕入れ担当]