監督は、これが初めての劇場用長編映画というヤセミン・サムデレリ(Yasemin Samdereli)。彼女自身が移民3世ということで、小さなエピソードの数々にリアリティがあり、くすっと笑わせながら現実を伝えていくタイプの映画に仕上がっています。
幕開けは老夫婦が帰化の申請をしているシーンから。
夫のフセインは、1964年にトルコから出稼ぎにきて以来40年以上ドイツで暮らしているのに、いまだトルコ人としての意識が強く、ドイツ国籍の取得に消極的です。それに対して妻のファトマは、ドイツのパスポートが嬉しくて仕方ありません。
このイルマズ家、トルコにいた頃に生まれた息子2人と娘1人、ドイツで生まれた息子1人、娘と末っ子には子どもがいるのですが、その8人が集まって食事している最中に、フセインじいさんが故郷アナトリアに家を買ったことを発表。家の改修を手伝って欲しいので、家族全員でトルコに行こうと提案します。
しかしどこの家庭でも同じように、子どもたちはあまり乗り気ではありません。また娘の子である大学生の孫娘は、ボーイフレンドとの間に問題を抱えていて、これまた旅行に前向きではありません。そんな状態ですが、フセインじいさんの強い意向を受けて、結局みんなでトルコに行くことになります。
フセインじいさんと共にこの物語の軸になるのが、末っ子の息子である6歳のチェンク。小学校に上がり、地理の授業だったり、サッカーのチーム分けだったり、自らのアイデンティティを意識するような出来事が起こります。
フセインじいさんと仲良しのチェンクですが、父親もドイツ育ちですのでトルコ語が話せません。同じクラスのトルコ移民からはドイツ人っぽいと言われ、自分はトルコ人だと言ってケンカまでするのですが、実際のところ、なにがトルコ人なのかピンとこないわけです。
そんなチェンクの疑問に答える形で、トルコ行きの物語と平行して、イルマズ家の歴史が語られます。買物もままならないファトマだったり、ぱっとしないクリスマスだったり、トルコから移民してきた頃の面白エピソードを通じて、移民ファミリーの普通の暮らしが観客に伝えられていきます。
出演者に有名俳優はいませんし、映画も素朴な作りながら、ほのぼのとした雰囲気の向こうに鋭い視点があり、最後にホロッとさせてくれる良作です。
ドイツで深刻化しているイスラム系移民の問題。この映画は本国で150万人を動員して、さまざまな賞に輝いているそうですが、少しでも理解が深まり、社会の亀裂が埋まっていくと良いですね。
公式サイト
おじいちゃんの里帰り(Almanya – Willkommen in Deutschland)
[仕入れ担当]