映画「わたしたちの宣戦布告(La guerre est déclarée)」

Laguerre0 子どもの難病ものというと、本人の忍耐や周囲の献身で涙を誘う映画をイメージすると思いますが、そういう湿っぽさとは無縁の映画です。だいいち、子どもが病気で苦しんでいる姿が登場しません。試練を課された若い夫婦が、力を合わせて困難を乗り越えていくという、一種のラブロマンスです。

主演の二人に起こった実話に基づく映画だからこそ、かえってその陰鬱さを突き放して見ることができたのかも知れません。また、現実世界で既にある種のハッピーエンディングを迎えているということもあるでしょう。しかしそれだけでなく、ドキュメンタリー感覚の映像とか、選曲の良さとか、ユーモア溢れるセリフといった映画作りの妙が、テーマの重苦しさを払拭しているのだと思います。

ストーリーは単純で、ロメオとジュリエットが出会ってすぐに一目ぼれ。ほどなく男の子が生まれ、アダムと名付けて幸せな日々を送っていますが、アダムの様子がおかしいと検査を受け、脳腫瘍が見つかります。二人が奔走した甲斐もあり、名医の手術で腫瘍は取り除かれますが、一難去ってまた一難。悪性の腫瘍(ラブドイド腫瘍)と判明し、親子ともども長期戦で病魔と闘う、というお話です。

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困難を抱えた夫婦が主人公ですから、励まし合うだけでなく、諦めかけたり、衝突したり、さまざまな感情が交錯します。それを当人たちが演じているのですから、どこまでが現実にあったストーリーで、どこからが脚色されたストーリーなのかも曖昧になってきて、シンプルな展開の割に深みを感じさせる映画になっています。

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それにしてもフランス映画らしいと思ったのは、この夫婦のあり方。ディスコで出会って恋に落ち、次のフェーズが出産です。日本だったら間違いなく結婚式のシーンが挟まれるでしょう。

また、アダムが病気だとわかって病院に集まったロメオとジュリエットの両親たちが、お互いに「初めまして」の挨拶をしていること。

ジュリエットは、道で会った友人にロメオのことを「アダムの父親」と紹介しているし、結婚を単なる制度と割りきっているフランス人ならではの感覚だと思います。

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病院のシーンでは、実際に働いている人を撮ったそうで、主役の二人を含めてあまり有名な人は登場していませんが、「最強のふたり」で家政婦役だったアンヌ・ル・ニ(Anne Le Ny)がマルセイユの女医を、「サラの鍵」でもいい味を出していたフレデリック・ピエロ(Frédéric Pierrot)が外科の名医を演じています。

監督兼主演のヴァレリー・ドンゼッリ(Valerie Donzelli)のことは、これまでまったく知りませんでしたが、次作が上映されたらぜひ観にいきたいと思っています。

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余談ですが、エンディングの曲が懐かしの Lio そっくりだと思っていたら、この Jacno という人は Amoureux solitaires の作曲者なのですね。音楽が効果的に使われている映画ですので、公式サイト内に音楽リストが用意されているのも嬉しい配慮です。

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公式サイト
わたしたちの宣戦布告Declaration of War

[仕入れ担当]