最近のシャンテは外れがないような気がしますが、これも地味な映画ながら、印象に残る作品です。
舞台は米国中西部のミズーリ州オザークス。主人公は、精神を病んだ母親と、幼い弟と妹の面倒を見ながら、食うや食わずの生活を送っている17歳の少女、リー・ドリー。父親はドラッグの密造で逮捕され、家や山林といったすべての資産を保釈金の担保に入れたまま失踪してしまいます。
父親が裁判に出廷しなければ、家を失ってしまう……。リーは父親の消息を追い求めてオザークの荒野をさまよいながら、父親の過去を知り、一族とこの土地の闇を目の当たりにしていきます。少女が暴力に屈せず、意志の力で真実に迫っていく姿を丁寧に描いた上質なサスペンス映画です。
ダニエル・ウッドレル(Daniel Woodrell)が2006年に発表した小説を、デブラ・グラニック(Debra Granik)という女性監督が映画化した作品とのこと。小説家も監督も初めて聞く名前だったのですが、ダニエル・ウッドレルはオザークス出身で、この地を舞台にした小説(本人いわく“country noir”というジャンルだそう)を何作か書いている人だそうです。
映画もノアールというか、ハードボイルドな作りで、リー・ドリーを演じたジェニファー・ローレンス(Jennifer Lawrence)の好演もあって、非常にリアリティの高い映画に仕上がっています。
ジェニファー・ローレンスは、ギジェルモ・アリアガ(Guillermo Arriaga)監督「あの日、欲望の大地で(The Burning Plain)」の子役でも素晴らしい演技を見せていましたが、この「ウィンターズ・ボーン」は間違いなく彼女の出世作になるでしょう。彼女の熱演あっての映画だと思います。
またリアリティという面でいえば、強い米国でも豊かな米国でもない、貧困にあえぐ米国中西部の真の姿を描いた映画だと思います。
たとえばリーの夢は米軍に入隊して4万ドル貰うこと。まだ17歳なので親の承諾がいるのですが、失踪した父親と精神を病んだ母親では承諾を得られないばかりか、従軍中、誰が弟と妹の面倒を見るのかとリクルーターの兵士に諭される始末です。
個人的なことをいえば、私は学生時代、隣のカンザス州に短期留学したことがあるのですが、中西部の現実を垣間見て、それまで憧れだったアメリカに対する見方を180度変えた経験があります。
一緒に留学した1人はミズーリ州の大学に進みましたので、受ける印象には個人差があると思いますが、映画「ボウリング・フォー・コロンバイン(Bowling for Columbine)」のような中西部の生活は、私にとって大きな衝撃でした。そういう意味で、この「ウィンターズ・ボーン」の世界観に、強いリアリティを感じたのかも知れません。
キャストにもスタッフにもスターはいませんし、あまり製作費をかけていないと思いますが、一見の価値がある素晴らしい映画だと思います。
公式サイト
ウィンターズ・ボーン(Winter’s Bone)
[仕入れ担当]