〈art-Link 上野-谷中 2010〉の目玉イベント、「ハーブ&ドロシー」先行上映会に行ってきました。郵便局員のハーブと図書館司書のドロシーという、一風変わったアートコレクターを追ったドキュメンタリー作品です。
この公務員夫婦が収入の許す範囲でこつこつ買い集めてきた現代アートが、結果的に非常に価値の高いコレクションとなり、それをどこにも売らず、ナショナルギャラリーに引き渡したというエピソードを基に、本人と関係者のインタビューによって夫婦の姿が描かれています。
コレクションの対象となったアーティストがたくさん登場しますので、現代アートの知識があれば一層楽しめると思いますが、アートに興味のない人でも楽しめる映画です。なぜなら、この映画の本質は、ハーブとドロシーというヴォーゲル(Vogel)夫妻のラブストーリーだからです。
映画を観て感じたのは、この夫婦は、アートを買うプロセスを、二人して非常に楽しんでいるということ。手を繋いでアトリエに出掛けていき、未完成のものまで全作品を見せてもらい、時間をかけてアーティストとの会話を楽しみます。モノとしてのアート作品ではなく、アーティストとのコミュニケーションを媒介するものとしてのアート作品を買っている感覚です。
極端に言えば、ヴォーゲル夫妻が楽しんだ時間や経験の対価としてのアート購入。だから、持っている作品が高騰しても、それを売るプロセスで夫婦の大切な経験を台無しにするリスクを取るより、ナショナルギャラリーに寄贈する方が二人にとっては理に適っているのでしょう。リンダ・ベングリス(Lynda Benglis)はこの夫婦を"greedy"だと言っていましたが、二人揃って楽しい時間を過ごすことに関して、どこまでもどん欲な人たちだと思います。
本当に仲の良い夫婦です。映画にも登場するウィル・バーネット(Will Barnet)がヴォーゲル夫妻を描いた作品(The Collectors)が捉えているように、主観的なハーブと、客観的なドロシーが、常に互いを補完し合っている感じ。映画の中でドロシーが「結婚して45年になるけど、離れ離れだった回数は片手で数えられるぐらい」と言っているように、彼らは常に一緒にいます。その仲の良さに随所でホロッとくる映画です。
これが劇場用映画第1作目という佐々木芽生(Megumi Sasaki)監督のスピーチにもホロッときました。
下は佐々木監督が描いたヴォーゲル夫妻のアパートの見取図ですが、この1LDKのアパートのように、こじんまりとしていて、愛にあふれた映画です。機会があったらご覧になってみてください。
公式サイト
ハーブ&ドロシー(Herb & Dorothy)
[仕入れ担当]